隠れ狼と流され子羊【極】

BL単行本
隠れ狼と流され子羊【極】
総合 ★4.7 / 5.0|攻めの本性見せてくる度 |受けが信じることの切なさ度

「優しい攻めが好きだけど、どこか物足りなさを感じてる」って人、いますよね。その違和感の正体、たぶんこれです。シズマの『隠れ狼と流され子羊』は、その「優しさの裏側」が全部詰まった作品です。

一見テンプレートな「優しい攻め×コミュ障な受け」に見えて、第一印象を120%ぶち壊してきます。描かれるのは、単なる「表の顔と裏の顔」というギャップじゃない。相手の全てを見つめることの怖さなんですよ。

柊という受けキャラが、カフェバイトの千紘の人懐っこさに癒されているところから始まります。そして初めてのお泊まりデート——千紘が見せた「別人のような鋭い表情」。その一瞬で全部が狂う。柊が感じたのは「自分が知ってると思ってた千紘は、実はこんなにも違う存在なのか」という根本的な揺らぎです。

ここからがエグい。その後も柊は千紘と向き合い続けるんですけど、気のせいだと思い直してみたり、翌朝のいつもと変わらない優しさを見て「あれは幻だったのか」と自分に言い聞かせてみたり。その心理描写の深さが——正直に申し上げると——就活するよりニートしてるよりも真摯に向き合うしかないレベルなんですよ😂 攻めの鋭さと優しさが往復する中で、受けが揺れる揺れる。その揺れが決して「怖い」だけじゃなく、最終的に「信じる」という選択肢に辿り着く過程。表情の描き分けが本当に天才級です。千紘が人懐っこく笑う時の目の柔らかさと、ふとした瞬間に見える捕食者の目の対比。その差分だけで何度も読み返してしまいます🙏

シズマは『怪異さんと飛鳥くんのお話』でも関係性の掘り下げで定評がありますけど、今回はそれをさらに別の角度から攻めてくる感じ。前作ではほのぼのの中に温度感を作ってましたが、今回は「甘さの下にあるもの」をここまで露骨に描いてくるのは初じゃないでしょうか。健気受けというタグだけで判断したら100%見誤ります。この柊は単に「尽くしてくれる相手に甘える受け」ではなく、「自分が見たくない相手の一面とどう向き合うか」という泥沼に足を踏み入れるんですよ。

**サンプルには絶対に含まれない沼がここにあります。**

中盤以降の二人の距離感の変化、そして「隠れ狼と流され子羊」というタイトルが最終的にどういう意味を持つのか。柊が千紘の「隠れた」側面を知った後、それでも「流され続ける」ことを選ぶ——その覚悟の部分があのベッドシーンに集約されてます。後半の数ページ、特に二人の表情が交差するコマがあるんですけど、そこで初めてタイトルの重みが分かる。ニートの涙腺は容易に緩みますけど、これは別です。12回読み返して何度泣き直したか数える気力もありません😂

同じ「相手の本性を知る系」のBL作品ってたくさんありますけど、大抵は「本性がヤバい攻めに振り回される」か「そもそも本性なんてもんがない誠実な攻め」の二択じゃないですか。でもこれは違う。千紘の優しさと鋭さは共存してるんです。どちらかが本当で、どちらかが嘘なわけではなく、両方が同じ一人の人間。そのリアリティが、関係性として圧倒的な説得力を持ってます。

この内容で187ページ、電子限定かきおろし2ページ付き。同じような心理描写重視の恋愛BLなら最低でも2000円以上が相場ですが、この密度ならむしろ安い。「本当は怖い攻めの顔が見たい」「受けが信じる覚悟を見たい」「ギャップだけじゃなく心理戦が見たい」という人間にとっては、迷ってる時間が無駄なレベルです。

逆に「純粋な愛情だけで完結する王道BLが好き」という方には、この複雑さはしんどいかもしれません。そこは正直なところです。でも「もう一度読み直したいのを必死で我慢してる」状況——ニートが深夜2時に叫んでいい尊さではないんですけど、もはやどうしようもない——を体験した身からすると、【買い】です。今月のベスト確定です。

この作品にハマったら、まずシズマの『怪異さんと飛鳥くんのお話』で世界観を広げるのはもちろん、同じ「攻めの支配欲が感情の延長にある」系の骨太なBLを漁るといいですよ。あるいは、このレベルの心理描写が欲しいなら、もう少し硬めの社会人BLの方が刺さる可能性もあります。とにかく1冊で満足できる密度、ここに詰まってます。

作家: シズマ

ジャンル:
単行本 恋愛

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