虎に甘噛み【極】

BL単行本
虎に甘噛み【極】 【電子限定かきおろし漫画2P付】
総合 ★2.8 / 5.0|関係性の説得力度 |後半の盛り上がり感

期待値が高かっただけに、その分残念さが増してます。正直なところ、冒頭の空気感と後半の方向性にズレがあって、最後まで納得し切れなかった作品ですね。素材は悪くないんですよ。でも料理で言えば、いい食材の味を活かしきれないままスープにしちゃった感じ。それが透けて見える。

まず、虎という立場での支配性を引き出しながらも、相手の甘え方や依存の方向性の描写が浅いんです。序盤の「この二人、本当は相容れない立場なのに惹かれてる」感──あの緊張感が、中盤から「あ、結局ただのラブコメになっちゃうんだ」に急変してしまう。攻め側のキャラが強そうに見えるのに、実はすごく受動的で、受け側に主導権を握られてる力関係になるんですけど、その転換が気持ちよくないんです。「勝つ」「従わせる」みたいなマッチョイズムで、心の機微が削られてる印象を受けます。本来そういう関係性ってのは、どちらかが優位に立つことより、ふとした瞬間に相手に支配されることの「快感」や「恐怖」のバランスなんですけど、そこが単なるパワーゲームになってるんですね。

四方月ろーど先生の他作品と比べると、「虎に甘噛み」シリーズの無印版は、この手の関係性をもっと繊細に扱ってました。特に攻め側の「相手を支配したい」という欲望が、実は「相手に頼られたい」「相手に必要とされたい」という根拠のない不安から来てるんじゃないか──そういう心理的な深さがあったんです。でも【極】は設定を「より極端に」という方向で振り切ったんだろうけど、結果として関係性の説得力が失われてる。シリーズとしてのステップアップがなくて、むしろ後退してる感すらあります。無印は「こいつら本気で好き合ってんだな」って納得できたけど、【極】は「このキャラたち、本当は何を求めてるんだろう」って最後まで分かりませんでした。

絵柄は安定してて悪くないんですけど、コマ割りが割とオーソドックスで、この手の「支配と依存」を扱う作品にしては演出力に物足りなさがあります。相手を追い詰めるシーンとか、相手に甘えるシーン──そういう感情的な転換点で、もっと視線の動きとか呼吸の描き方で「ああ、このキャラ今こんなことを考えてるんだ」って読者に伝わるはずなんですよ。でもそこが表面的というか、「とりあえず二人が接近した」「とりあえずセックスした」みたいな記号化した動きになっちゃってます。

エロシーン描写に関しては、濃度自体は結構あるんです。でもここなんですよ。大事なのは、セックスシーンがその二人の「関係性の延長」として機能してるかどうか。この作品のエロは、「攻めがマウント取ってる」「受けが従ってる」っていう支配関係をシーン化してるだけで、感情的な盛り上がりがないんですね。本編で「相手のことが本当は分からない」「不安定な関係」っていう空気感があるなら、セックスシーンってのはそこへの答えが出る瞬間になるはずなんです。でもこの作品のベッドシーンは「支配と被支配」という形式を満たしてるだけで、「二人が本当に求めてるもの」が伝わってこない。だからエロにエロじゃない。つまりつまらん。正直、読んでて「あ、これで満足するんですか」って思っちゃいました。

電子限定かきおろし漫画の2Pも、率直に言うと蛇足です。本編で伝え切れてない感情を後付けで描こうとしてるんだけど、「あ、編集に言われて追加したんだな」感がモロに出ちゃってます。本来はこれくらいの「説明不足」を補うべき要素が本編に入ってるべきなんですよ。むしろこの特典で「あ、こういうことか」って理解できるってことは、本編だけじゃ成立してないってことなんです。つまりサンプルで十分な作品になってる。課金してもらう価値がない。ニートの少ない遣い銭だからこそ、そこは厳しく判定させていただきます😁

同じくらいの価格帯なら、関係性の深掘りがしっかりしてる他作家の「支配×依存」系BLを選んだほうが人生が豊かになると思います。例えば同じ「虎」モチーフなら、別の作家さんの作品で「支配者の本質は実は被支配者の中にあるんじゃないか」って思わせてくれる作品とか、「強気に見えるキャラが実は相手に支えられてる」ことの脆さを丁寧に描いてる作品とか──そういった選択肢がたくさんあります。189ページという分量の割に「ああ、もう終わるんだ」って早さで、心理描写の密度が足りない。読むのに2時間でいい。けど、そのあとに心に残るものがない感じですね。

この作品、「虎に甘噛み」の無印版をすでに読んでてシリーズ展開を追ってたい人向けという感じですけど、その人たちだってサンプルで様子見してから判断したほうが無難だと思います。年下攻め好きな層が「下位性のある強気キャラ」を求めてるなら、この作品じゃなくても他に選択肢がいっぱいあるんですよ。むしろそういう人ほど、この作品読んだら「あ、こっちじゃなかった」ってなる可能性が高い。

正直に申し上げると、これは【見送り推奨】ですね。期待を持たずに「話題だから読んでみるか」くらいのテンション、それこそ真夜中にニートが目玉焼き食べながら読むくらいの気持ちなら、まあ2時間の暇つぶしにはなります。でも相応の対価を払う価値があるかと言われたら、うーん、って感じ(ニートが言うなよという話ですが😁)。同じ予算があるなら、別のジャンルで沼に落ちたほうが人生が豊かになると思う。そんくらい、「微妙」「惜しい」「期待してただけに残念」という三重苦の作品です。シリーズファンでもない限り、パスしていい。むしろパスすることを推奨します。

作家: 四方月ろーど

ジャンル:
単行本 恋愛

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