第一印象としては、正直「あ、そっちか」という感じですね。タイプ・エイドシリーズの番外編だから手を伸ばしたんですけど、期待してた方向とズレました。本編の設定をそこそこ生かしつつ、攻めが患者で受けが看護師というポジション。制服萌えと力関係の逆転が見どころってわけなんですけど……ここなんですよ、惜しいのは。
看護師設定を活かすなら、「患者という弱い立場」と「看護師という立場」のコントラストにもっと深く踏み込んでほしかった。表面的には「患者の世話をする」という図式が成り立ってるんですけど、二人の心理的な距離感が本当に浅い。患者が健気に甘えて、看護師がキュンキュンしながら対応する、という基本形だけで終わってる。29ページというボリュームだからこそ、一つのシーンを徹底的に掘り下げるべきだったんですよ。
たとえば「患者として弱さを見せる瞬間」と「看護師として支える側になる瞬間」の切り替わり、その感情の揺らぎをコマの中に詰め込むことで、短編でも十分に二人の関係性が立ち上がる。でもこの作品は、そこまで密度がない。エロシーンも丁寧ですし技術的には悪くないんです。ただ、展開が「患者が甘えてくる→応じる」という流れで、突然の葛藤とか予想外のキャラの一面が見える瞬間がない。読み終わった後、「で、この二人って本当に何が好きなんだっけ」と思ってしまう。攻めが受けの何に惹かれてるのか、受けが攻めの何に心を寄せてるのか、そこがぼんやりしたまま(ニートの就活の志望理由くらいぼんやり😂)。
作画としては市ヶ谷モル先生らしい柔らかいタッチで、表情も丁寧なんですよ。だからこそ、もう一押しがあれば光ってた。目線の使い方とか、指の動きとか、そういう細部にキャラの思いを込めるってことができてれば、ページ数の制約も関係なく沼に堕ちるはずだったんです🙏
シリーズ本編との比較だと、メインキャラの掘り下げが浅いという点で劣ってますね。本編で構築された関係性をそのまま「番外編でもう一度見せます」みたいなスタンスだから、新しい視点や意外な側面がない。正直、本編を既読していても「この話、あってもなくても……」くらいの印象になってしまう。
ここからが重要なんですけど、医療BLというジャンルで見ると、医者×患者とか看護師同士の恋みたいなモチーフは結構ある。その中でこの作品が光るかというと……光らない。理由は簡単で、医療現場という設定が「装飾」になっちゃってるからです。本当に活きてる作品は、その舞台じゃなきゃ成立しない関係性があるんですよ。でもこれは看護師と患者じゃなくて、別の職業設定に変えてもストーリーは成立する。それって致命的に惜しい。このボリュームだからこそ「看護師×患者」という設定の濃さに全力を注いでほしかった。
素材は悪くないです。作家さんの実力も知ってますし、絵も話運びも技術的には問題ない。ただ、期待していたからこそ、こっちも辛口になってしまいます。同じ看護師設定のBLなら、私は別の作品をお薦めします。そっちのほうが「患者と看護師」という関係性に本気で向き合ってるので。このボリュームで同じ金額を払うなら、もう一本別の短編を買ったほうが満足度は高い。セール時なら悪くないですけど、定価で買う必要はない。
【判定:見送り推奨】
ターゲット別に書くなら、シリーズ本編が好きで「登場キャラたちの別角度を見たい」という人は、期待値をグンと下げてからなら楽しめるかもしれません。ただ「本編の設定を活かして、新しい解釈を見たい」という期待だと、確実に落胆します。新規読者なら、本編からスタートして、番外編はスキップしても全く問題なし。
どうしても市ヶ谷モル先生の新作を追いたい気持ちは分かります(私もそうです😁)。でも、期待値を考えるとこれよりは本編の新シリーズ出るまで待つか、セール時の購入でいいかな。29ページで現在の価格は、正直「もう一冊別の短編が買える」という現実と天秤にかけると、優先度は低いですね。
作家: 市ヶ谷モル
ジャンル:
単行本






